2009年 03月 26日
Beauty うつくしいもの |
なかなか東京で上演されないので、ヤキモキしながら待っていたのですが、やっと見られました。
実に美しく、実に哀しく、実にいい映画でした。
胸が熱くなるシーン、目頭が熱くなるシーンがたくさんありました。
こんなに素直に感動した映画は、久しぶりです。
伊那地方に伝わる村歌舞伎がテーマ。十三代片岡仁左衛門丈が何度か訪れたという縁で、主役の半次は片岡孝太郎さん。幼なじみで、子供の頃から村歌舞伎を一緒に演じていた雪夫を愛之助さん。二人と深い縁で結ばれた女性、歌子を麻生久美子さん。半次の祖父に井川久佐志さん。他に、これが遺作となった北村和雄さんや、串田和美さん、赤塚真人さんなどがご出演。
特別出演で、仁左衛門さんと秀太郎さんもご出演です。
村歌舞伎を見る観客の一人、多分、村人の設定で2カットだけ写る仁左衛門さん。
とても村人に見えません。オーラがすごいんだもん。仁左衛門さんは写った瞬間にわかって、「オッ!」と思ったのだけど、秀太郎さんは分からなかった……。いつも女形だしな……。
で、物語です。
時は昭和10年。歌舞伎に打ち込む、まだ子供の半次と雪夫と歌子。友情というより、強い愛情で結ばれています。
でも、昭和19年。半次と雪夫に赤紙が届き、出征前のお別れ狂言として、「絵本太閤記」が演じられます。雪夫が演じる十次郎が瀕死状態になると「死ぬな」「生きて帰って来い」と、観客から声がかかります。役者たちも涙で演技が続けられず、幕が引かれて、再び幕が開いた時には、化粧はそのままに、軍服姿の出征兵が舞台に並んでいます。白塗りの化粧が、涙で流れ落ちて、滑稽ともいえる姿なのだけど、その姿が逆に、いっそう哀しい。
終戦間際の満州や、シベリアの強制収容所で、過酷な年月を過ごす村歌舞伎の役者たち。村に帰りたい、歌舞伎を演じたいと願いながらも、願いはなかなか叶わず……。
シベリアでの分かれのシーン。
「いつから逢わぬか、おまえ、憶えていやしゃんすか」
「新口村」のこのセリフが、とっても哀しく胸に響きます。
戦争って、いったいなんなんだ、と思い、ソ連はいったいナニモノなんだ、と怒りを新たにしました。
それでも無事に故郷へ帰った半次は、村歌舞伎の立役者となり、雪夫との思わぬ再会と再びの別れを経て、40年後、年老いた半次の引退狂言。
戦争の古傷を抱え、足元もおぼつかない半治に、観客からは容赦のない野次が飛びますが、雪夫の衣裳を着て、思い出の「天竜恋飛沫」(これは映画のための創作舞踊)を踊る半次の鬼気せまる演技に、いつしか観客からも温かい声援が……。
孝太郎さん、ホントに素晴らしかったです。
愛之助さん、いつもながら、美しいかったです。
村歌舞伎なので、ホンモノの歌舞伎役者が演じたのでは、うますぎ、な感じになるからと、多分、素人くささを残した演技を心がけたのでしょうけど、それでも、二人の歌舞伎シーンには惚れ惚れとします。
「Beauty うつくしいもの」
決して派手な映画ではないのだけれど、この映画には「うつくしいもの」がたくさん詰まっています。
日本の原風景といえるような、伊那地方の美しい自然。
大切に守り続けられてきた、伝統芸能と、それに打ち込む人の姿。
友情、男女の愛、あるいは男女の別を超えた、強い愛。
忘れていたものを思い出させてくれるような映画でした。
by chiharu-N413
| 2009-03-26 20:51
| よもやま話